福岡県の不動産市況
本特集記事は、県内49社の宅建業者を対象に、1月~3月にわたってヒアリング・インタビューを行い、これに不動産ネット「ふれんず」のデータを参考にしながら県内の賃貸市場の動向についてまとめたものです。
福岡市東区・東部地区
地価上昇で賃料10万円超も
JR香椎駅周辺の賃貸マンションは2LDKで10万円を超えています。3号線バイパス沿いの下原でも2LDK(60㎡弱)が9万円ほどになっています。
事業用に関しては重飲食店以外の店舗事務所に貸すことを希望するオーナーもいますが、重飲食店に貸さなければいけない程、空室が多い状況です。
香椎には九州産業大学がありますが、寮に住む学生が多い傾向にあります。民間アパートに住む学生の多くは、大学周辺というよりもアルバイト先が見つけやすいエリアに住んでいます。
千早と名がつけば住宅地の坪単価は100万円超に
JR千早駅周辺は賃貸マンションが多くあり、シングルタイプは1Kが多く、築浅で7~8万円程度。高く感じますが、遠方の人は、空室が出れば内見せずに決めることも多いといいます。入居者の多くは社会人です。ファミリータイプの賃貸マンションはあまりなく、多くは分譲賃貸で、3LDKだと優に10万円を超えています。
築古アパートには外国人入居者
九州大学跡地周辺にあるかつての学生向け賃貸物件には、多くの外国人が住んでおり、築古のアパートに日本人が入居することは少なく、留学生が多数を占めています。外国人が箱崎エリアに多いのは、箱崎ふ頭にある企業の従業員や技能実習生がいるためです。また、日本語学校が多く、そこに通う留学生が多いことも理由です。法人が社宅として借り上げるケースも多く、家賃保証会社を間に入れることで、管理会社としては安心して契約を締結できるといいます。
新築賃貸はほぼサブリース
和白エリアには、三苫や塩浜といった人気の住宅地があり、九州産業大学や福岡工業大学に近く、低層のアパートが多くあります。また、令和健康科学大学ができたことで、学生や教職員の賃貸需要が増えています。ただ、最近はアルバイト先の関係で、博多に住む学生が増えているようです。
和白では築30年ほどの2DKの賃貸物件が5~6万円、2LDKだと6~7万円で、新築や築浅の物件はほとんどがサブリースであり市場には出てこない状況です。ファミリータイプの物件は分譲賃貸が多く、3LDKでも10万円を超える物件は少ないといいます。
JR新宮中央駅を中心に活性化
新宮エリアはJR鹿児島本線新宮中央駅の東側にIKEAをはじめとする郊外型家具店、カインズなどのホームセンターが多く立地し、新宮町のブランドイメージが変容しています。駅前の土地は坪60万円ほどで、高値で落ち着いています。賃貸はファミリータイプの2LDKが6万円前後です。
古賀市は地価が上昇賃貸は1LDKの新築が増加
古賀市の賃貸は2LDK以上のファミリータイプが多く、最近はシングルタイプの問合せが増えているものの物件が少ないため、新築で1LDKを建てるところが増えています。シングルタイプが増える背景には、博多まで20分という利便性から、博多への通勤者が古賀市に住み始めたことが挙げられます。
1LDKの新築は6万円を超えています。ファミリータイプの2LDKで築20年以上なら5万円台の物件が多くあります。最近は、ファミリータイプの新築は少なくなっています。理由として、投資として考えたときに、建築費の高騰もあり、採算がとれないことと、3LDK以上だと、賃貸より購入を検討する層に多くは流れるからです。
博多区
博多区全体で賃料値上げの動き
博多エリアは、地価上昇で分譲マンションや賃貸マンションなど居住用の新規供給は難しい状況です。博多駅南周辺には新築の賃貸マンションが供給されていますが、ファミリータイプはなく、ほとんどがシングルタイプです。賃料はコロナ前の約1.5倍ほど上昇していますが、床面積は1LDKで40㎡ほどあったものが30㎡ほどと狭小になっています。賃料相場はおおまかに新築で10万円、築浅でも8万円程度になっているようです。
3月現在ですでに22棟のビルが竣工している博多コネクティッドエリアのオフィス賃料相場は、CBRE株式会社の令和5年6月期調査によれば、募集賃料が坪2万円~2万4000円とあります。取材に応じた会員業者の話では、今は平均坪3万円ほどではないかと見ています。博多区全体において、賃料を上げようとする動きが見られ、実際に上昇しているようです。
いずれにしても、博多駅周辺エリアは、今年6月竣工予定の「博多駅前三丁目プロジェクト」や令和10年竣工を予定している博多駅の線路上空を活用した「博多駅空中都市プロジェクト」などが控えており、売買、賃貸市場ともに大きな影響を与えるエリアといえます。
JR博多駅に近接し住宅地としてファミリー層に人気
竹下エリアはJR博多駅に近接するため、もともと住宅地としてファミリー層に人気でしたが、ららぽーと福岡の開業等で周辺道路が整備されたことにより、マンション建設が相次ぎ、転入世帯が増加し、那珂小学校は31学級の過大規模校になっています。
賃貸市場は基本的にはファミリー層向けの物件が多く、古くからの街だけに築古の物件が多いエリアです。
同エリアにはアサヒビール工場がありますが、令和10年に操業終了予定で、その後は鳥栖市へ移転することから、跡地の開発に大きな関心が寄せられています。
シングル用賃貸マンション建設
古くからある美野島商店街の周辺は道幅が狭く、地元住民の家々が並んでいます。また、語学学校が近隣にあり、留学生が多いのも特徴です。以前多く作られた民泊は、一度影を潜めたものの、コロナが収束して以降、近年また増加しています。
新築はシングルタイプの賃貸マンションが多く、分譲マンションの新規供給はあまりないものの、投資用一棟売りビルなどは建築されています。オフィスビルの賃料相場は坪2万円ほどです。
賃貸物件の供給多く賃料も上昇
吉塚エリアの賃貸市場をみると、ファミリータイプ60㎡ほどで9万円程度だったのが12万円ほどにまで上昇しています。平均してもここ数年で1〜2万円ほど上昇し、築20年程の賃貸マンション、ファミリータイプ60㎡でも10万円以下では探しにくいという状況です。
シングルタイプは4〜6万円ほどで、ファミリータイプと同様に上昇しています。新築だと8万円ほどの物件が多く供給されています。
中央区
新築の賃料高く築浅物件が人気
天神ビッグバンでオフィスや店舗は供給過剰となり、周辺の賃貸ビルにも影響が出ています。「ONE FUKUOKA BLDG」などは建築費の高騰で強気の賃料設定のようにも思われ、募集はまだ続いているようです。
天神エリアの賃貸マンションについては、地価と建築費の高騰で新規の供給数は減少しています。新築だと賃料は1LDKで10~14万円、2LDKだと10万円台後半で成約している物件もあります。供給の少ない3LDKの場合、30万円前後での成約もあるようです。新築の賃料が高いため、築15年以内の物件が人気で、空室が出てもすぐに決まってしまい、紹介できる物件が無いという状況です。賃料の高騰により、住み替えできない層が多くいることで、分譲賃貸のオーナーが売却に舵を切ったことも一つの要因です。仮にそのまま賃貸に出すとしても3~4万円は賃料を値上げするということが増えています。こうした賃料値上げについては、福岡が持つポテンシャルの高さの割に、これまでの賃料設定が低すぎたために近頃の賃料値上げにより、正常値に近づいているという見方もあります。
販売戸数増やしたコンパクトマンションにシフト
薬院や白金周辺エリアは、居住用の物件が多く建っています。賃貸マンションについては、単身者や※DINKs向けの需要が強く、40~60㎡未満のコンパクトなマンションがコンスタントに建っています。建築費の高騰で、販売価格を下げるために、床面積を狭め、販売戸数を増やしたコンパクトマンションにシフトしているという印象です。賃料は天神エリアと大きくは変わりません。
※共働きで子供を持たない夫婦
賃料高く転居希望者は足踏み
最近の傾向として、これまで相場と思われていた価格帯での空室は無い状況が続いています。唐人町エリアに限らず、中央区の人気エリア全てに共通することですが、需要は高い一方で、新築賃貸マンションの供給数は幾分減っており、竣工しても募集無しで決まるのが全体の3割という印象です。空室になれば賃料を値上げする傾向にあり、転居しようと思っても、転居先の賃料が相当高くなっているので踏み切れず、諦めざるを得ない現実に、多くの転居希望者が直面しています。
唐人町エリアの賃料相場は、新築の1LDKが12~13万円、3LDKが20~25万円といったところで、ここ数年で異常な値上がりです。
高額賃料を支える転勤族
六本松は、築浅マンションの販売価格高騰で、これまで見られていた分譲賃貸の流れが売却へと向かっています。以前は売却してもローンの残債が多いため、貸すしか選択肢がなかったのが、物件価格の高騰で売却も可能となったわけです。
分譲賃貸が市場に出れば、築浅で90㎡の3~4LDKが賃料約30万円近くにもなります。高額の分譲マンションを買った転勤族が、数年後に転勤する段階で、分譲賃貸として市場に出すというケースもあります。
六本松の場合、ファミリーとシングルが混在していますが、築浅のシングル1LDKだと賃料は10万円くらいです。新築だと10万円は優に超えてきます。
南区
新築賃貸の賃料が周辺の賃料相場を押し上げる結果に
大橋エリアの賃貸に関しては、賃料の下げ止まり、もしくは若干上がってきている様子があります。地価の上昇や建築費の高騰で、当然、高めの賃料を設定しなければ合わず、それが周辺の賃貸の賃料相場を押し上げています。ただ、この現象は大橋エリアに限ったことではなく、西鉄大牟田線沿線駅周辺全体にいえる傾向です。
月極駐車場確保が難航化
高宮エリアでは、築古の賃貸マンションやアパート・戸建の建替えが少し出てきています。ただ、昭和40年代後半に建設された分譲マンションの建替えの話は聞きません。
高宮だけでなく大橋や井尻エリアなどでも言えることですが、月極駐車場が少ないというのが大きな問題です。駐車場だったところに賃貸ビルが建ち、広めの土地には高齢者施設が建っており、賃貸物件を探す人で車が必須という方は、まず駐車場を確保してからその周辺で賃貸物件を探すといった動きになっています。
こうした状況の改善に繋がりそうなサービスが、車を所有しない層に人気となっている「LUUP」や「チャリチャリ」です。自転車・電動キックボードによるシェアサイクルサービスで、物件の近くにポート(置き場所)があれば、車を持たない、持てない人にとって、まさに「駅がそこに来た!」という感覚で利用でき、物件の価値を高める効果が期待できそうです。
地価上昇で駐車場が住宅団地へ
井尻エリアも地価が上がり、住宅街で坪90万円ほどになっており、手が届きにくいエリアになってきた状況です。賃貸物件についても、低層の木造アパートでは収支が合わず、最近では駐車場だった土地に、6〜7階建ての賃貸マンションが建っています。こうした影響もあり、大橋や高宮エリアと同じで、駐車場不足という問題があり、月極の駐車場代が1万円を超え、10年前に比べると2倍ほどになっています。
世代交代したオーナーの負担増
屋形原エリアでは、昭和50年代に多くの賃貸アパートが建築されました。世代交代したオーナーは多く、配管などのメンテナンスに多くの時間が割かれ、費用も重くのしかかっています。建替えのためには、計画的に空室にしていく必要がありますが、賃貸中の物件の老朽化への対応も必要です。築古の賃貸物件を相続したオーナーにとっては、資産と言うより負債を相続したような状況になるため、何らかの対策や制度が必要だと感じます。
城南・早良・西区、糸島地区
七隈線の博多駅延伸でさらに学生の自宅通学増加
福岡市営地下鉄七隈駅周辺の学生アパートは空室を抱え苦戦しています。七隈線開通当時、薬院駅ができたことで、大牟田線沿線の学生の実家通いが可能となったことが大きな打撃でしたが、今回、さらに博多駅延伸でJR沿線も通学圏に入ってきたことが主な要因です。必然的に、アパートの一棟売りも安くなっています。最近は、七隈界隈に住む学生数が減り、街が暗く、人影も疎らな印象です。七隈周辺の学生アパートは1Kがおよそ2.5万円から、1DKが4~5万円が相場です。
別府駅周辺は城南区一番の人気エリアに
福岡市城南区の中でシングルにも、ファミリーにも一番人気のあるのが別府エリアです。賃貸に関しては、築古でも新築でもすぐに決まる状況です。別府に限らず、早良・城南・西の三区全体に言えることとして流入人口が増加しており、七隈線の別府駅ができたことも大きな要因です。3日前に内見予約が入り、いくつか物件を用意していたが、案内当日には全部決まっていたという話も聞きます。案内する物件は、直近で探さなければ安心できないという状況です。
別府エリアの賃料は1K・1DKのアパートは平均4万円くらいです。最近は1K・1Rの新築物件はほとんど無く、1LDKタイプがほとんどですが、RCなら約10万円です。築古の1LDKで7.5~8万円です。
ファミリータイプの3LDK賃貸は別府駅近くにはありません。投資家目線で考えても、別府駅付近は土地値が高く、3LDKの賃貸マンションという発想にはなりません。したがって、ファミリータイプの賃貸は2LDKが多く、新築なら10万円以上、12〜13万円する物件もあります。築古は8~9万円程度です。築古に関しては、入退去ごとに賃料をアップする方向で見直すオーナーが多いといいます。
賃料上昇の七隈線沿線駅を避けたファミリー層に人気
原・飯倉・荒江エリアは、10年前まではシングルタイプの決まりが悪く厳しい状況でした。もともと、このエリアはファミリー層に人気のエリアのため、賃貸マンションを建設するという場合も、ワンルームという選択肢は無いというのが、多くの不動産業者の考えでした。しかし、ここ4~5年は、これまで決まらなかった物件が決まっています。全体的な賃料が上がっているため、低所得者層が空いていた物件に入居しはじめたのが一つの要因と考えられます。
また、原に関しては、令和2年にイオン原店が建替え・再開業したことで、街の雰囲気が変わり、1K賃貸の契約が増えました。別府などの人気エリアの賃料が高くなったことで、比較的賃料の安い原周辺の賃貸が活性化しているものと考えられます。原・飯倉・荒江エリアの交通手段は基本バスのため、七隈線沿線の別府などに比べると賃料が安い状況です。ファミリー層に人気の要因は、荒江1丁目や飯倉1丁目が城南小中学校の学校区で、城南区では一番の人気校であることもその理由です。
